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「なあ、今日が何の日か、覚えてるんだろうな?」
俺が念を押すように問いかけると、彼は焦りと困惑の表情を隠しきれずに瞳を大きく揺らした。
年末は忙しい。今年は暦上年末年始休暇が比較的早くから始まるため、多くの仕事が前倒しで行われている。俺の部も例外ではなく、普段は「残業はなるべくするな」と口酸っぱく言っている本部長も、ここ一、二週間は「質とスピード重視だ」という言葉しか言えなくなっていた。そしてこの忙しなさは他のどの会社も同じようで、定時をとっくに過ぎているだろう時間にも関わらず、二十五階のオフィスの窓から見えるビルはどこも煌々としている。
ここ数日、窓から見える夜の街に代わり映えはなかったが、今日ばかりは違った。じわじわと光の粒が溶け出して、夜空まで包み込んでしまうような、そして地上を歩く人の表情なんて見えるはずもないのに、ありありと感じられるような、そんな光景だ。
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