おやすみが言えなかったから

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「マフラーだ! 今日寒いよね、私もつけてくればよかった。あれ、スカート長くない?」 「ねえそれがさあ、お母さんがね――」  一緒に歩く同級生。きらきらしていて、華の女子高生をどう過ごすかばかり考えていて。私は並んで話しながらスカートを上げていく。 「そんでさ、体育のあとってシャワーないじゃん! だるくない?」 「あー確かに」  本当は体育好きだけど。適当に調子を合わせる。 「やばい、あの人イケメン、松下トオルに似てる!」 「うそ、まじで」  帰宅したらお弁当についてどう交渉するか考えていたのに。 「おはよー!」 「わっ、おはよ」 「なに話してたん?」  二人目の友人が合流するころにはすっかり忘れて。ただただ、今日の始まりにわくわくしている。それでも。 「いやあの人がカッコいいって――」  お母さん、私のことわかってくれるかな。話ちゃんと聞いてくれるかな。楽しいこと、かっこ悪いこと、全部全部受け入れてくれるかな。 「トンティロトンティロぽっぴっぴ!」 「なんの曲?」  中身のない会話をしながらずっと、頭の片隅で考えている。 「ハリボットザココショウのネタだよ!」 「わろた」 「ねー、爪伸びてないー?」  どうしたらお母さんにこのもやもやが伝わるか。 「爪切り持ってるよ、貸そうか?」 「まじー? 女子の(かがみ)だわー」  私を丸呑みにしてもらえるか。 「爪切りと絆創膏は持っておけってマイマザーの直伝なんで」 「なにそれスーパーマザーじゃん!」  その方法をずっと、私は考えている。 完
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