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「はい、着いた」
サイドブレーキを引く。私がぐるぐるしているのに余裕な声色が気に食わない。
「ねえお母さん」
「なあに?」
ネギくさいよ、と告げたきり車を降りて早足で玄関に入る。お母さんは「え、うそ言ってよー」とか不満げだったけど聞かないフリ。
「おかえりー……ってあれ?」
廊下の途中で声をかけてきたお父さんのことも無視をする。
夕飯は食べてきたからそのままシャワーを浴びて寝てしまった。車を降りてからお母さんともお父さんともひと言も交わさないまま、寝てしまった。喧嘩はいつもしてるけどおやすみを言わないで、寝てしまった。
こんなこと初めてだ。
「うちのこは反抗期なくて、ええ、まあ多少はありますけどね。遅いだけかしら、楽ですよお」
いつぞやの遠くから見えたお母さんが思い出される。保護者会か、授業参観か。そんなやつの井戸端会議だった。
反抗期がない? 遅い? そんなわけないじゃない。私だってむっとするし気に入らないこともある。
「……言わないだけなのに」
心臓がまた、きゅってなる。水泡がじわじわ浸食してきて背中までくる。じっとりと身体が濡れてしまう前に一気に頭の上まで布団を被ると、昼間の香りが私を包む。
今日お天気だったっけ。晴れた日にせこせこ布団を干すお母さんが目に浮かぶ。
「はああああ」
大きくため息をついて顔をだす。温かい香りから逃れるように、眠れるまで何度も寝返りをうった。
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