おやすみが言えなかったから

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 スマホのアラームに起こされて、スヌーズに手をつけると部屋のドアをノックされる。返事をする前に隙間から顔を出したのはお父さんだった。 「おい、目覚まし鳴ってるぞ。早く起きろ」  いつも起こしにくるのはお母さんなのに、珍しい。 「ねえお母さんは?」  いいから早くしろ、とお父さんはドアを半開きでリビングに行ってしまった。 「ドアちゃんと閉めてよ……」  バン、とわざわざ音をたてて閉め直す。  もしかして、お母さんは機嫌悪いのだろうか。私が昨日おやすみって言わなかったから、傷ついてしまったのだろうか。  焦る気持ちでノリのきいた制服に袖を通す。靴下を下げて、スカートは二折り持ち上げ……はやめて一つにしておこう。お気に入りのマフラーはクリーニングに出しちゃったから二軍のマフラーを鞄に突っ込む。 「――よし」  スカートも昨日より長いし、うん、オッケー。自室のドアを開け、お母さんがいるであろうリビングへ向かう。  「四月はまだ寒い」といった昨夜の会話を思い出すと、胸の奥がひんやりして胃の辺りまで下がってくる。廊下の先にみえる玄関で、もごもごと靴を履いているのはお母さんだった。
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