顔合わせ

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顔合わせ

少し蒸し暑い6月初めの日曜日。 私の婚約者、高木ハヤトと一緒にうちの応接間で両親と対面していた。 ハヤトも父もネクタイを締めている。 家にいるのに他所行きの格好をしている事に違和感を感じながら、私はハヤトの隣で緊張していた。 「夏海さんと結婚させて下さい!」 ハヤトは単刀直入に言った。 緊張はしているのだろうが、飄々としている彼はあまり緊張してる様には見えない。 それが私には羨ましい。 私はすごく緊張していた。 胸は早鐘を打ち、顔は強張っているのが自分でも分かった。 父も母も緊張した面持ちだ。 父が一つ頷いた。 「はい、夏海を幸せにして貰えますか?」 父は真っ直ぐにハヤトを見ていた。 真剣な眼差しだ。 父のそんな真剣な眼差しは初めてだった。 ハヤトはその眼差しを受けて居住まいを正す。 そして、父の目をみてゆっくりと声を出した。 「はい、一緒に幸せになっていこうと思います。僕は夏海さんを幸せにして、夏海さんは僕を幸せにしてくれます。お互い支え合える夫婦になりたいと思います」 父は満足気に頷いた。 「安心しました。夏海を宜しくお願いします」 私は母を見た。 母は眉間に皺を刻んでいる。 やっぱり母はこの結婚に反対なのだろうか。 母が私とハヤトに視線を向ける。 「食事にしましょ」 今日の顔合わせでは昼食も一緒にとることになった。 母の提案だった。 格式ばった母のことだ。 顔合わせ後は一緒に食事をとるのが普通だと考えたのだろう。 母がキッチンに向かう。 昨日の夜から色々と料理を作っていた。 お寿司でも取るのかと思っていたら、手作りの料理でもてなすと聞いて昨夜はビックリした。 私は急いで母の後に続く。 母は振り向きざま、「春香を読んでハヤトさんと顔合わせして頂戴。今日は貴方もお客様だから、料理の心配はしなくていいわ」と小声で言った。 その表情はあまり変わりがなく、思わず私は聞いてしまう。 「お母さんはこの結婚についてどう思ってるの?」 母は驚いた顔をして、真顔で答える。 「そんなの嬉しいに決まっているわ。あたりまえでしょ」 そんな母の言葉に少し安堵する。 母は嘘が苦手だ。 嘘をついているようには思えない。 私は心の中でそっと息を吐いた。少し硬くなっていた体から力が抜ける。 私は母に微笑んで「良かった」と呟いた。 そして、母に背を向けて春香の部屋に向かった。
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