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 しかし全く思い出せない。  しばらく考えていたが、何も思い出せない。  「おい、黙ってないで何か喋れよ」  男が喋りかけてきた。  「なんでこんなところに閉じ込められているんでしょうね」  「しらねーよ。つまらないことじゃなくてもっと楽しい話をしろよ」  楽しい話って言ってもなぁ……  私が黙っていると、男が自分の思い出話をし始めた。  「なあ、海水浴って行ったこと有るか? 大の字でプカプカ浮かんでいると青い空と白い雲がキレイだったよなぁ」  男は大の字になって思い出しているのだろう。  子供の頃の記憶がこんなときに蘇るなんて、  もしかしてもう精神的に追い詰められて逃避しているのだろうか?  「プカプカ浮かびすぎて、帰る頃になっても波に揺られている感じのままだったけどな」  男はそう言うと大笑いした。  笑い終わると男は腹が減ったといい出した。  「ちょっとだけでいい。甘いもの……そうだなぁ、チョコレートか果物を食べたい」  私は男が喋るのをただ聞いていた。  「果物といえば、最近柿を食べてないなぁ。濃い橙色に熟した柿」  また思い出の中に入っていったか。かなりやばい精神状態に違いない。  「そういや、柿といえば柿のとり方知ってるか? 竹の棒の先に切れ込みを入れて、その切れ込みを柿の果梗かこうを引っ掛けて、ちょっとひねるんだ。  すると簡単に柿の実が取れるんだ」
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