丑三ツ時ノ同棲生活

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 一旦家へ戻り、着替えやタオル類といった一週間の生活に必要な最低限のものを準備する。その間に、一緒に住んでいる勤務中の養父(ちち)へ小咲からの依頼の件をメールすると、『了解』とだけ返事が返ってきた。特に問題は無いからか、それとも親不孝者の養子(むすこ)にそれほど興味が無いからか。 (まぁ、二十八の息子に興味持たれてても困るけど)  スマホをスリープにしようとして手を止める。そう言えば、と茜にもメールを送った。 『小咲さんから聞いてると思うけど、今日から一週間だけ一人暮らしすることになった。もし良かったら、今夜一緒に俺の部屋で夕飯でもどう?』  思わず顔がニヤけてしまう。一人暮らしなどしたことが無かったし、これからも父親と二人で暮らしていくことを考えると、千載一遇のチャンスとも言える。 (茜と初のお泊り……) 『事故物件なんか行くわけないじゃん。一週間頑張ってね』 (ですよねー)  一応訊くだけ訊いてみただけ……そう自分に言い聞かせて、スマホのスリープボタンを押すのだった。 * * *  事故物件のベランダからは、西のビル群に吸い込まれ始める太陽が見えた。この部屋は五階にあるせいか、遠くの方まで景色が見えて気持ちがいい。  この部屋まで来る途中、数日分の食料や簡易な寝具を買い込んだ疲れか、ただ単純に茜に夕食を断られたせいなのか、夕日がやけに目に染みたので、早々にブラインドを閉めてリビングの電気を点ける。  一週間だけの滞在にもかかわらず、電気やガス、水道といったライフラインを全て使えるよう小咲は手配してくれた。そのおかげで、この日の夕飯であるカップラーメンのお湯まで沸かせそうだ。やかんに水道水を入れ、備え付けのコンロのつまみをひねる。  生活するための家具は殆ど無いが、一週間の滞在なら食事も床に直置きで問題無いだろう。そのために床はざっと掃除した。フローリングに座り続けるのは痛いが、寝具の三つ折りマットを座布団変わりにすれば何とかなる。寝る時はこの上で毛布を被れば、とりあえずは寝れるだろう。  トイレはトイレットペーパーさえあれば問題無いし、風呂場も旅行用のシャンプーセットと石鹸、ハンドタオルさえあれば何とか使える。  問題はここで滞在する期間中、暇過ぎて死ぬかもしれないということくらいだが、それはスマホと充電器さえあれば何とかなりそうなのが現代社会のいいところだ。
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