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自分には式神という話し相手もいるわけだから、この一週間の一人暮らしも大して苦にはならないだろう。それもあって、あまり役には立たないかもしれないが、依頼を引き受けることにした。もしかしたら、かえって父の方が家で独り寂しい思いをしているかもしれない。
昼間にこの部屋を視た時は、入居者に悪さをしそうな事故物件絡みの異形……人ならざる者の気配を感じなかった。それは、あの時視線を送った桜爺も同意するところだ。
「事故物件て言っても、必ず何か出るってわけじゃないよな」
「だが主よ、この部屋には間違いなく何かおるぞ」
「龍蜷の言う通りじゃな。ごく僅かな気配じゃが。日中は姿を現せぬが、一時なら姿を現せるほどのごく弱き者ではないか?」
(一時っていつだよ!!)
若干の恐怖と苛つきで、茹で上がったカップ麺を勢いよく啜り上げるしかなかったが、一時とは一体いつのことなのか、その後すぐに発覚することとなる。
その日の深夜、疲れで早めに就寝していた俺は、女性のすすり泣く声で目を覚ました。瞼を擦りながら周囲を見回すと、ベランダ付近の部屋の隅の天井で、女性が必死に涙を拭きながら泣いているのが視えた。
茶髪でゆるふわな長い髪に、白いニットのロングワンピースを着ているが、それらはまんべんなく血痕で汚れていた。特に頭部の損傷が激しく、顔に幾筋もの血液が流れているのが視える。
「ごめん……。まだ住人がいるなんてつゆ知らず……」
そう声をかけると、彼女は驚いたようにゆっくりとこちらを見て、「ここの住人じゃない」と言った。
「じゃあどういう……」
「彼氏がここに住んでたの」
(彼氏が住人? ……ってことは、彼氏も一緒に死んだってこと? 無理心中?)
「その彼氏は?」
「知らない……」
一方は成仏して、一方だけがこの世に残った……ということだろうか。
昼間感じていた気配も彼女のもので間違いなさそうだ。毛布の中からモゴモゴと起き出した桜爺も、「正体はこの娘のようだのぅ」と呟いた。
「何それ……」
「あ、このじーさん? これは俺の式神」
「式神? あなた何者なの?」
「何者って言われても……ただのニート?」
だがここは家ではない。今はバイト中の身ではあるが、特に職には就いておらず実家に寄生している……てなことを、ややこし過ぎて簡単には説明出来ない。それを集約したものが“ニート”となって口から出た。
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