21人が本棚に入れています
本棚に追加
午前二時。マットの上で二人並んで座り、床に立てかけたスマホに流れる恋愛映画を静かに鑑賞する。
「結末わからなくてもいいの?」
何となく訊いてみる。昨日までの四日間、彼女が姿を現していられるのは午前二時からの三十分間だけだった。二時間の映画を見たところで、序盤の三十分しか見られない。
「別に。こうして誰かと見てるのが楽しいから」
そう言う彼女が力なく笑うので、何となく視線を反らす。
(同棲って……やっぱりよくないよなぁ……)
彼女が消えた後も最後まで映画を見たけれど、内容はひとつも頭に入ってこなかった。
*
滞在六日目の午前二時。昨夜までのやりたいことは事前に聞いていたことだったが、この日のやりたいことは「当日に言う」の一点張りで聞かされていなかった。
「俺がここにいられるのは今夜で最後だけど、最後のやりたいことって何なの?」
明香里は何も言わずに床で無造作に広がった寝具を指差す。
「まさか……一緒に寝たいってこと?」
恥ずかしそうにコクリと頷く。
「いや、それは流石に……」
「横で寝させてくれればそれでいいから」
(それなら……いいのか?)
とりあえずマットに並んで寝ころび、二人の体を覆うよう毛布をかけてみる。その瞬間、霊に対して何が出来るわけでもないのに、妙な緊張感が漂った。
「これで……気が済んだ?」
「いや、全然。他にもいっぱいやりたいことあるし」
「欲張りだなぁ……。でも俺はもうここには住めないからなぁ……」
流石に父を一人残して、これ以上幽霊と同棲生活を楽しむわけにはいかない。
「わかってる」
「でもさ、やりたいことは来世にとっとけばいいんじゃない?」
「来世?」
「そう。俺なんかとじゃなくて、来世で本当に好きな人と思いっきりやればいいんだからさ」
暗闇で彼女を見つめると、怯えたような眼がこちらを覗いている。
「私にも、来世なんて……来るのかな?」
「来るさ。こんなところにいつまでもいなけりゃね」
「そっかぁ……来世か……」
そう呟いた途端、彼女の姿は段々と薄れていた。来世に希望を持つことが、彼女の負の感情……この世への未練や執着を、少しずつ溶かしているかのように。
「でも忌一との同棲生活も、結構楽しかったよ」
そう言って彼女は、最期に俺の頬へキスをした。スマホの時計は相変わらず、午前二時半を表示していた。
最初のコメントを投稿しよう!