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最終日、荷物を片付けて綺麗に掃除をし、部屋を出た。実家へ荷物を置いてから、再び小咲不動産へ顔を出す。
「で、霊が出たって聞いたけど、どうだったの?」
小咲に通された応接コーナーで、謝礼金の入った封筒を受け取る。そこには家賃一ヶ月分のような金額が入っていて驚いた。
「人間に悪さするような霊じゃなかったので大丈夫かと」
「祓ってくれたってこと?」
「いや、そうではないですが……でも最後は大分薄かったんで、もう出ないと思いますよ」
小咲は満面の笑みで「やっぱり忌一君に頼んで良かったよ、ありがとう!」と言って握手をする。よほど嬉しいのか、その手を上下にぶんぶんと揺すった。
(霊と同棲ごっこしただけなのに、こんなにもらっちゃっていいのかな……)
そうは思いながらも、こんなバイトなら楽勝だなと、小咲の「次も何かあったら宜しくね」という言葉につい期待をしてしまう。
終業までにはまだ時間があったので、仕事の邪魔をしないよう静かに店を出ようとした。しかしカウンター越しから茜に、「その霊、もしかして美人だったぁ?」と声をかけられる。
「え!?」
「悪さするような霊じゃないのに私が部屋へ行くのを止めたってことは、何かやましいことでもあるんじゃないのぉ?」
自殺者が前入居者の彼女だと、茜は小咲から聞いていたのだろうか。咄嗟に小咲を見るが、キョトンとした顔でこちらを見ている。
「そ、そんなことあるわけ……」
「別にどうでもいいけどぉ? 忌一が誰と同棲しようとね!」
茜はそう言って、店から追い出すように目の前で店の扉を閉めた。初めて“女の勘”というものに畏怖しながらも、「茜ちゃ~~~ん!!」という情けない叫びを、商店街中に響かせるしかないのだった。
<完>
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