夏の朝

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「関係ない、父さんと俺だって違う人間だ」  そしてマフラー越しに晴翔は都を抱きしめた、幾度も耳元に小さな声で謝罪を繰り返す。都は彼を一度でも僻んだ自分を後悔した。味方はいる、その手は小さくとも。晴翔の声はが次第に震えて鼻声に。都は彼の優しい感情を受け止めて一筋の涙を流した。 「晴翔さん……!」  それから五年余り経ち、約束を守った晴翔と都は深東京都市にやって来た。晴翔の父は良い顔はしなかったが、兄に続き深東京医専に合格したのだからもう文句は言わせない、と。卒業するまであと五年と少し、それから先は考えたくない。例えるのなら今がこの世の天国なのだろう。  都がぼんやりと眺めた窓の外は夕暮れ、そろそろ晴翔も帰ってくる。しかし、都が壁に寄りかかっていた身体を起こすと酷い眩暈がして畳に倒れて動けなくなった。やけにひかない汗、突然のことに驚いてしかしもがいて身体を動かすだけで気分は悪くなり目の前は暗く意識が遠ざかる。どうしよう、もうすぐ晴翔だって帰ってくるのに……。  ***
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