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そして蒼司はスーツの胸ポケットから名刺入れを取り出して一枚晴翔に渡した。その裏面に蒼司の自宅と電話番号を書き入れて。
「いつか遊びに来ると良い、何なら都を連れて来ても構わないよ。歓迎しよう」
仕事が忙しいから職場に戻ると二人分のコーヒー代を置いて蒼司は早々に去って行く。ぼんやりと彼の背中を見送って、晴翔はここで蒼司に会ったことを心から後悔した。やはり彼とは意見が合わない、都に対するその暴言とも言えるとらえかた。幼い頃から彼は都に冷たい当たり方をしていて、晴翔は嫌悪感を抱いていたのを忘れていた。
もう会わない。名刺を半分に折って乱暴にポケットに入れて、わざと足音を立ててひどくイラつきながら彼は老緑の自宅へ帰ることにした。
***
「晴翔さんおかえりなさい、遅かったですね。白百合は人が多かったでしょう?」
「まあな、もうしばらくは行かない」
「……なにか、ありましたか?」
「別に何も。風呂に入るよ、湯を沸かしてくれるか?」
「あ、お湯はもう沸かしてあります」
「ありがとう」
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