老緑

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 白百合で何もないことはなかった、それくらいは都にだってわかっている。昔から都に対して冷たい態度を取る蒼司は苦手だったが、櫻葉の家で都に優しく接する者のほうが少なかったからそこまで過剰に反応するようなことではない。  そう、晴翔は優しいのだ。下働きのような蔑まれる身分の都を大切にしてくれる人。あの冷たい家で彼に会えた奇跡、都はそれだけで十分恵まれていた。 「っ、……く……」  急に胸元に疼痛を感じ、思わず都は畳の上に座り込む。多少の息のしづらさを感じながら、数回深呼吸をすれば痛みはすぐに落ち着いた。この頃たまにこういう事がある。それでも都は晴翔に相談することは出来なかった、彼はああ見えて少し心配性なところがあるから。  都が窓の外を見れば今夜はすっかり晴れ模様、今日の晴翔の心とはきっと正反対なのだろうけれど。しかし疼痛が治まれば少し眩暈がした、そこへ風呂上がりの晴翔がやって来る。 「都?」 「……ああ、あがりましたか晴翔さん。お湯熱くありませんでした?」 「いや、ちょうど良かったが……顔色が悪いな」 「いえその、夕飯を食べそこねてしまったせいでしょう」 「だから先に食べておけって」
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