夏の朝

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「雪国! 本州最北端の久我雪村(くがゆきむら)、深東京都市までは夜行で二十時間かかるとこだ。冬はえげつないくらい雪が積もってさ、だからこの老緑の夏は暑くて無理。もう扇風機二台使ってるよ」  この小さな島国は四季といっても各地でそれなりに違うらしい。晴翔は雪にはそれほどに縁はなくむしろ幼い頃から雪には喜んでいた気がする。まだ都の母が家庭教師をしていた頃、幼い都は晴翔と一緒に早朝から雪だるまを作って冷えきって、結果熱を出してしばらく寝込んでいた。 「晴翔は医者になるのか?」 「いや、まだ決めかねている。卒業して資格は取って一応数年のキャリアは積むつもりだけど……」 「櫻葉製薬だもんなあ、期待大きいだろ?」 「いや、兄の方が優秀だから」 「知ってる、この前先生から聞いた。お前の兄ちゃん深東京医専伝説の首席だろう? 入試は全教科満点で資格まで歴代最高点で合格したって。近くに優秀な奴いるとへこむよな。まぁ、お前も十分優秀だけどさ」
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