夏の朝

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 晴翔とは比べられないくらい優秀な兄だった。晴翔に持っていないものをたくさん持っている蒼司は、父親はじめ会社の期待の星。だからそれほど晴翔は期待されていない、けれどそれはそれで少し気楽でもあった。 「ところで晴翔、今朝八百屋にいたろ?」 「……は?」 「髪長い女と一緒にスイカ買ってたな、ニコニコ可愛い顔した細い子」 「あ、あれは」 「いやいや、隠さなくて良いよ。大丈夫、俺は口は固い!」 「違う」 「慌てるなよぉ、大丈夫だ皆には言わねえ」 「女じゃない!」 「え?」  そう宣言して、やはり言わなければよかったと思った。同性と一緒にいるには近い距離過ぎる、それに黙っていれば都は女に見えないこともない。 「同居人だよ……事情があるから誰にも言うな」 「え、何の事情?」 「言わない」  墓穴を掘っている。事情はある、いつも都をそばに置いて来たかった。それに実家に残しでもしたら酷い扱いを受けるには違いなかったし……。 「ふうん、まあ良いけど! なあこっそり紹介しろよ、女じゃないなら友達になっても良いだろう?」  ***
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