老緑

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「すっかり夏だな……学校でも夏休みの話題で持ちきりだよ」  晴翔は今年医学を学ぶために実家から都をともに連れてこの深東京都市に上京した。故郷の九宮ノ市女郎花村(きゅうみやのしおみなえしむら)から四時間ほど汽車に揺られて訪れたこの街の夏は思ったよりも早い。 「晴翔さん夏休みはどこかに行かれるのですか?」 「お前を置いて? そんなこと考えられない」  そう言って晴翔は都のくちびるに触れて頬ずりをする。その顔は都以外には見せない非常に『個人的な』表情だった。 「でも晴翔さん人気者なのに……この前だって飲み会続きだったじゃないですか。皆さんお友達なんでしょう?」 「未成年が酒も飲めないのに飲み会とか抜かすのもどうかと思うんだけどな。別にただの付き合いだよ、未成年はジュースを酒がわりに仕方がなく行っていただけだ。もうしばらく行かない」  そのまま二人は畳になだれ込んで、しっかりとお互いの存在を確認するかのように身体を合わせて、抱き合いしばらくの間目を閉じた。そこに感情は確かにある、恋愛と言うにはここまでが少し長すぎるくらいの時間ではあったが。 「晴翔さん、天井の目が見てますよ」
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