夏の朝

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 風の強い日に凍えている都を自室からじっと晴翔が見つめている。彼は自分ばかり暖かい場所から、都を蔑んでいる。そんな風に僻んでしまったこともあった。母がいる時は一緒に遊んだ『坊ちゃん』は今年から有名中学に通っている。  食事は非常に質素なもの、冷えた残り物を少しだけ。それでも都は自分に言い聞かせていた、ここに置いてもらえるだけで幸せだって。 「都」  深夜、一人で都が台所の掃除をしていると晴翔がやって来た。都は寒い夜に服を濡らし凍えながらシンクを磨いている。指のあかぎれ、手指の感覚もない。 「どうしました、晴翔さま」 「さま、はいらない……寒いよな?」 「えっ……」  晴翔はふわりと凍えた都の肩に上等なマフラーを巻いた。高級で肌触りも良くちくちくもせずに暖かい。 「申し訳ないな、俺には何も出来なくて。また昔みたいに一緒に遊びたいのに」 「そ、それは僕の母が……」 「先生とお前は別の人間だ、お前のせいで先生がいなくなったわけじゃない」 「晴翔さん」 「絶対助けてやる。お前の居場所を作ってやるから、少し辛抱して待っていてくれ」 「いけません、そんな言葉、お父様に聞かれたら……」
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