夏の朝

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 何度も呼び鈴を押しても出て来ない。特に用事も聞いていなかったし都は家にいるはずだった、仕方なしにカバンの奥にしまってあった予備の鍵を探し出す。 「留守?」 「いや、そんなはずは……」  結局、晴翔に市川がついて来てしまった。何度断ってもそのしつこさに根負けして、しかし都はきっと嫌がるだろう。 「都!」  依然出て来ない、都。予備の硬い鍵はなかなかうまく回らなかった。晴翔は焦った手で力づくに鍵を握る。何度目かでなんとか開いて、その勢いでドアを開けた。食卓の上に国語問題集が無造作に置いてあった。すっかり日が沈んでも明かりもついていない部屋に慌ててスイッチを入れたら、畳に都が横たわっていた。眉を潜めて汗をかいて、薄明かりでもわかるほど顔色が悪い。 「おい、都? 何があった!」 「落ち着け晴翔、揺するな」  慌ててその身体を抱き起こして都を起こそうとする晴翔を咎めたのは市川だった。いつもとは違う冷静で表情も落ち着いている彼は、静かに都の脈と呼吸をみる。そしてそっと都の頬に触れてその汗を拭った。 「晴翔、この部屋随分と暑いじゃないか。冷やそう、何か飲ませたほうがいい」
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