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決意
老緑の夏はまだ終わらなかった。
深東京医専夏休みの決められた課題は佳境に入ったところ。日々図書館通いをしていた晴翔も図書館で同級生に会うことが多くなった。皆、それなりに勉強している。深東京医専は医療系の学校としてはこの国、一、二を争うエリート校であるのは間違いなかった。
晴翔が勉強に出かけて、都も少し出かけることにした。今日は一番上等なシャツを着て、デニムは辞めた。運命が変わる日になる、なんて言ったら大袈裟になるが、都にも秘めた思いはあったのだ。一歩踏み出す覚悟は決めた。
早朝の商店街は少しずつ開店している。その中の一つの店、老緑雑貨店。数年前までは高齢の店主がいたのだが、若い店主に変わって以来すっかり変わってしまったと言う。輸入雑貨を扱う気難しいその新しい店主に都は用があった。
「すみませーん」
「なんだ」
「わっ……!」
声をかけた瞬間に背中から話しかけられたから驚いてしまった。気配の見せない無愛想な男は都をじろじろと睨みつける。
「な、な……」
「なんだと思っているのはこちらの方だが、私がこの店の店主だ。一体何の用だい?」
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