老緑

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 本棚の隅に無造作に置かれた問題集。都の母親は厳しくも優しい聡明な家庭教師であったのに、肝心の実の子供の都は中学校にも行けていない。それは都と晴翔が十三歳になる年に、使用人だった三十路の男と都の母親が二人で駆け落ちしたからだ。さすがに他に身寄りのない残された都を追い出すようなことはしなかったが、彼に対する態度はすっかりと変わった。小学校までは普通の子供だった、それが下働きの底辺、皆が嫌がる仕事ばかり都に押し付けて、勉強どころか睡眠時間すら与えられない。 「本屋で人気の小説本を見かけると読みたくなって手にとるんですが、けれど少し難しい展開になると良いところで文章が読めないんですよね。でもこれくらいの知識は現代の教育では皆持っているものでしょう? 僕は常識すらなくて恥ずかしい」  晴翔に触れる都の手のひらはずっと荒れっぱなし。水仕事や掃除に追われ、開いた時間では内職までしている。季節にあった造花を作って得た、微々たるその収入は都のもお小遣いだがすぐになくなってしまう。それほどに同じ家で育ったのに二人の環境は違いすぎた。
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