老緑

5/12
37人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
 医学を学ぶ名門とも言われる『深東京学園専門校医学専攻(しんとうきょうがくえんせんもんこういがくせんこう)』にトップクラスの成績で合格した晴翔は、実家から年の離れた兄に続く後継として期待されている。しかし彼が上京する際に望んだものは金や高級マンションでもない、志葉都の存在だった。 「問題集解いたら俺が採点してやるよ、漢字なんか簡単だから」 「そうですか? 意外と読めないものですよ、でも晴翔さんは秀才ですものね」 「でもお前は記憶力が俺よりもあるから、一回答えを見たら覚えるだろう? 俺は商店街の八百屋の野菜の昨日の値段なんか覚えていない」 「日によってお得な価格は違いますからね。節約生活、意外と楽しいです」 「俺には向いてない」  ようやく身体を離した二人は、夕飯に向けての準備を始める。晴翔が沸かしたての風呂に入っている間に都はきゅうりを刻んで冷麦を茹でてめんつゆを冷蔵庫から出す。この時期は氷がすぐになくなってしまう。上京するときに買い与えられた冷凍室のある高級な冷蔵庫には助けられていることが多かった。もうすぐ夏がやって来る。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!