老緑

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「じゃあさお礼に今日は昼飯、学食奢ってやるよ! ああ、お前また今度飲み会にも来いよなあ、クラスの女子期待してるぞ」 「勝手に期待されてもな、騒がしいのは苦手なんだよ」 「女嫌い?」 「別に、興味がないだけだ」 「変わったやつ!」  一年次はそれこそ座学が多い。進級するごとに実習も増えていくのだろうが、学べば学ぶほど『いのち』にそれは密着していて、晴翔は心に秘めた誰にも言えない不安があった。櫻葉製薬とシロカタクリの花。しかし数グラムの違いでシロカタクリは毒薬にもなる植物だ。  もう誰も失いたくない。いま晴翔の脳裏に浮かぶのは母じゃなくて、他の誰でもない都の笑顔だった。  ***  九宮ノ市女郎花村、この島国では海がない数少ない地域で駅までが遠いのどかな田舎だった。そこに櫻葉製薬女郎花工場(さくらばせいやくおみなえしこうじょう)がある。その女郎花村から百年前、櫻葉製薬が始まった。
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