老緑

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 全国の中でも大規模な製薬会社。現在の社長は晴翔の父で、次期社長候補として晴翔の兄の櫻葉蒼司(さくらばそうじ)が勤務している。彼は晴翔の十個上で、晴翔と同じ深東京医専を卒業した。晴翔に兄に対するコンプレックスがないと言えば嘘になる。優秀な彼はいくら追いかけようとも距離をとって先を行く。  櫻葉製薬深東京本社は深東京都市白百合(しんとうきょうとししらゆり)にある。現在本社勤務の兄、蒼司とは近々会わねばならないと晴翔は思っていた。幼い頃からいまいち相容れない関係とは言え、一応兄だ。だからと言って都のいるアパートには呼びたくないし、そんな時間をとって話すこともない。  白百合までは老緑から地下鉄で乗り換えて二十分。決して遠い距離ではなかった。実家で聞いて連絡先として一応控えていた電話番号に電話をかけると、本社の事務を名乗る女性が出た。この番号は会社のものだったらしい。 「晴翔か、悪いな。自宅にはほとんど帰らないから会社の番号で」 「忙しいんですか、兄さん」 「それなりには」
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