老緑

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 電話をかけたその日彼と会うことになった。なんでも出張の予定が入っていて、明日からしばらく白百合を離れると言う。授業終わりのそのままで晴翔は蒼司と約束した会社側の喫茶店へ。時刻は午後五時過ぎ、都には先に夕飯を食べているように伝えてある。 「ふうん、老緑に住んでいるのか、あそこはずいぶん田舎だった気がするが。俺が学生の頃の話だからだいぶ前のことにはなるだろうけれど、不自由はしていないか? 店も少ないから外食もままならないだろう」 「食事は、大丈夫。その辺りは困っていないよ」 「……まさかお前、都を連れて来たのか」  思わず晴翔は蒼司と目があった。前髪を上げた漆黒の瞳で彼は晴翔の動揺を見て笑う。 「ああ、都がいたら困らないだろうなあ。料理も掃除も子供の頃からやらせていたし、文句も言わずに言うことは聞くだろう」 「……都はモノじゃない」 「下働きが、教養も浅く反抗もしない、飽きたら捨てれば良いのだから。お前もよく考えたな」 「……」 「せいぜい勉強して知識を身につけろ、何年後かな、一緒に働く時を楽しみにしているぞ」
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