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1 拉致られる
スゲー車……高そうだなぁ。
あー…なんつったっけ、アレ。
海外で売ってるトヨタ車だっけか…あ~、もうちっとで思い出せそ…
…………
………ん、ムリ。思い出せない。やめやめ。
俺には一生縁のない車だしな。
つか、車に金かけるとか、俺、理解できねぇ。
動きゃいいじゃん、もったいねぇ。
どうせ金使うならもっと別の…
うまいもん食うとか、うまい酒飲むとか、旅行とか、競馬とか、パチンコとか、賭け麻雀とか…――――って、俺、オヤジくせぇ…
―――太陽眩しい……あー、さすがに完徹麻雀は堪えるなぁ…大学だりぃ。
…にしても、あの車、どんなヤツ乗ってんだろ。
なんか細工してあんのかな。外から全然中見えねぇな。
兄ちゃんのヤン車使用の安くさいスモークとは明らかに違うな、うん。
―――あ…。やーさん??……やーさんとかヤバくね??
拉致られてマグロ漁船で遠洋漁業、んでいいだけ働かされたら臓器売買だ…
―――おー、怖っ。勝手な想像だけど、めっさ怖っ。
あー、もう見るのやめよー。
………ん?ドア開いた。
――――オイオイオイオイオイオイオイオイオイッ
どこの大門部長刑事ですかぁっ?
そんなグラサンかけるの、渡〇也かレイ〇ーラモンかハリウッドセレブくらいじゃねぇの??
…え?
こっちに近付いてきてねぇ?
マジか…やべぇ、ガン見し過ぎた、俺。
逃げた方がいいかなぁ………
つか、こえぇよ、グラサンかけてて目見えねぇけど、明らかに睨んでるだろ、あいつ。
うわ、うわ、うわぁぁぁぁぁっ、絶対やべぇ、ロックオンされたーーーっ!!
誰か、誰か助けて下さぁぁぁぁいっ―――――
「…ケータ」
「――――へ?」
大学の正門前、友達が来るまで暇つぶしに見ていただけの景色の中、たまたま目に留まったホワイトパールのレクサスLS600hL。
一人勝手な想像を楽しんでいた俺の目の前に、件のグラサンをありえない程オシャレにかけこなし、スーツの上からでもわかる程、鍛え上げられた体躯の見知らぬ男が立ち止まる。
―――えーと……アンタ誰ですか?
…とは、怖くてとても聞けない俺は、威圧的な雰囲気を纏い俺の名を呼ぶ男を、呆然と見上げる事しかできなかった。
「お前に用がある。―――…一緒に来い」
「――えっ?……ちょっ――」
言い終わるよりも先に俺の手首を強く掴み、強引な所作でもって、俺はあの(全く理解できない)高級車の助手席に放り込まれた。
完全に拉致られたーーっ!!
やっぱやーさんじゃねぇかっ。
やべぇ、やべぇよ俺っっ――――売り飛ばされるーっ。
俺はもう恐怖のあまり、助けを呼ぶことも抵抗することもできなかった。
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