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2 ファーストキス!!
俺――安宅慶太<アタカ ケイタ>――が連れ去られた後、大学の正門前は騒然となっていた…らしい。
だって、俺はその場にいなかったし、そんなの知るわけがない。
「恵吾!!慶太がとんでもなくヤバそうなヤツに連れて行かれた!!」
俺が拉致られる前まで待っていた友達の西舘透<ニシダテ トオル>が、偶然にも無理やり車に乗せられるところを目撃していたらしく、慌てた様子で俺の幼馴染でやたらと世話を焼きたがる立花恵吾<タチバナ ケイゴ>に連絡していた。
『連れていかれたって、どういうことだ?!誘拐されたのか?自分で乗ったわけじゃないんだな?――どんな車だった?つーか、どんなヤツに拉致られた??』
矢継ぎ早の質問に、透は困惑の表情で暫し沈黙する。
「―――いや…俺も相手よく見てねぇんだけどさ、とにかくゴツくてでっけぇ男だよ。車は…白の外車…だと思う。左ハンドルだったから。―――わり、そんくらいしか…」
『――わかった…とりあえず、純さんに連絡入れる。何かわかったら電話くれ』
「おう――」
…というやりとりがあったらしい。
ちなみに、純さんとは、安宅純<アタカ ジュン>――俺の兄貴のこと。
俺の家は町の小っちゃな酒屋。
兄貴は死んだ親父の後を継ぎ、今は気のいい酒屋の店主(妻子持ち)
昔は…やんちゃしてたな、かなり(汗)
まぁ、いわゆる……ボーソー族とかいう、やんちゃ集団の総長なんぞをやっていたわけだ。
周りからは相当怖がられてたらしいけど、俺にとっては優しい兄貴。
眉毛がなくても、剃り込み入ってても、異常な程に俺を溺愛してくれちゃってる。
9つ歳離れてるってのも理由かも。
それに、昔ちょっとした事件に俺を巻き込んだっていう負い目もあるからか、やたらと過保護に俺を扱う。
俺はたいして気にしてないんだけど。
―――だからかな(汗)
『チームのトップ全員集めろ!!何としても慶太を探し出せ!!』
―――などという、全くもって他人にはカンケーない指令を、いともたやすく現在のやんちゃ集団に言い渡しちゃったりするわけで。
そんな周囲の心配をよそに、俺は何とも快適なドライブを満喫していたりする。
「ねぇねぇ、この車スゴイね!!これってさ、ハイブリッド車でしょ??マジで音静かなんだね。俺の兄貴の車なんてさ、マフラーに穴でも開いてる様な轟音立てる車だからさ、こんな静かな車に乗ったの初めて!!――――――っつーかさ、今さらだけど……俺って、ユーカイされたの?」
初めての高級車の乗り心地にかなりテンションを上げ話しかけちゃった俺は、その勢いを利用して一番気になっていたことをサラりと尋ねてみた。
したら、グラサン男の蟀谷あたりが一瞬ピクって引き攣ったんだよね。
…いや、アンタ、マジこわいっスよ。
「…お前の家、金持ちか?」
「―――いや、貧しくはないけど、金持ちでもないっス…」
「だろ?――――そんなヤツ誘拐して、俺に何の得があるってんだよ。バカか…」
おいぃぃぃぃっ!!!ちょっと待て待て待て待て待てぇぇぃっ!!
まずバカかと言われたことに腹が立つ。
俺は決してバカじゃない。地元で一番の進学校を卒業して、(田舎だけど)国立の(旧一期校と昔呼ばれていたらしい)大学にも入った。例え数時間前まで完徹麻雀していたとしても、きちんと講義を受けようと通学している真面目な学生なんだっつーの!!
“安宅家の神童”とまで言われているんだぞ!!!(…父母兄貴、談;)
んー…それに、それに、だ!――俺を拉致ったお前の得って、いったい何だ!!!
俺が怒りに震えもやもやと考えている間に、車がどこかの地下駐車場に滑り込み、月極めと書かれたスペースにその車が収まった……と、思った瞬間。
「―――――んっ…!!!」
グラサン男が俺の…俺の…唇をぉぉぉぉぉぉぉっ!!
「…ファーストキスだったのにーーーーーっ!!」
思わず正直に叫んでしまった俺は、……バカなのかもしれない。
俺の叫びを聞いた男の口元が、片端だけニヤリと歪んだ。
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