5 ケータを守る会

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5 ケータを守る会

どのくらいそこに突っ立ってたたんだろう。 俺は、「午後の講義、間に合うかな…」なんて、独り言を呟きながら、背負うことなく手に持ったままだったメッセンジャーバッグの中から取り出した携帯の液晶を確認する。 「――げっ、なんだこの鬼電……恵吾に透に兄貴…みんなどんだけ俺の事好きなんだよ~。…ったくしょうがねぇなぁ、あいつら。1分おきにかけて来てるし…―――――えっと…12時20分か……よしっ、間に合う!!」 俺は、異常な程の着信履歴を気にすることなく携帯をデニムの尻ポケットに仕舞い、大学構内へ足を踏み入れようとした…その時。 「慶太っ!!」 昼下がりののんびりした空気を切り裂く様な、乱暴な強い口調で誰かが俺の名前を呼んだ。 ――ま、誰だかすぐわかったから大して驚くことなく、俺はゆっくり振り返ったんだけど。 「よぉ、恵吾。どーしたぁ?」 「”どーしたぁ”……っじゃねぇよっ!!――すげぇ心配してたんだぞ、こっちは!!透からお前が拉致られるとこ見たって連絡来て、みんなで必死こいて探してたんだよ、お前を!!」 「――あぁ……悪ぃ――――――拉致、ではなかったみたいだ。俺今ちゃんとここに居るし。ハハハ、良かった良かった」 ほんとに良かったのか自分でもまだよくわかんなかったけど、それを説明したところで―――というより、説明のしようがない自分の感情を話すのも何だかめんどくさかったから、俺はあえて軽い口調でそう言った。 「良かっ??……アホか!!いいわけねぇだろっ。もう純さんに話伝えてあるんだよ――――どんな状況か、わかるだろ??」 そこで俺はうんざりした顔をわざと作って恵吾に見せる。 だって、兄貴が動くと言う事は、町中のやんちゃ集団が動くと言う事。 「…え~……なんで兄貴に言ったんだよー。めんどくせぇなぁ…」 そう言って仕舞ったばかりの携帯を取り出して、今度こそ本当にうんざりした気持ちでタッチパネルを操作する。 呼び出し音が1回鳴り終わる前にすぐ繋がった通話に、うんざりを通り越して呆れてしまった俺は、「あー、兄貴~?オレオレ、無事ですから~…じゃ――」と、すぐさま通話を切断する。 「―――おい、慶太…それはヒドいだろ…」 俺以上に呆れた顔で恵吾がそう言った。 別に無事だって事伝えたんだからそれでいいじゃん、と言おうとしたら手に持ったままの携帯がけたたましく(いや、音はいつもと同じだけど、かけて寄越した相手の感情が詰まっている様な…)鳴り、俺は、「はぁぁ~…」とひとつ溜め息をついてから、通話ボタンを押す。 「―――ナニ?」 「”ナニ”…じゃねぇぞ、コラっ。――慶太てめぇ、”オレオレ”ってサギか!!アホが。こっちがどんだけ心配して探し回ってたと思ってやがる??―――どこにいる?お前、今どこにいるんだ??――いいか、そこ一歩も動くなよ?知らない人に絶対ついていくな!今すぐ迎えに行くから待ってろよっ――」 「―――っあぁっ、っるせぇなぁ…探し回ったって、実際動いたの自分じゃないじゃん…――今は大学に居ます~。これから講義受けます~。だから心配ご無用。迎えも結構。――じゃっ…」 どんだけ過保護なんだよ、兄貴… もう俺ガキじゃねぇって。 本格的にめんどくさくなった俺はそう言って電話を切ろうとしたけど、今度はそうはいかなかった。 「ダメだ、絶対ダメだ!!お前は大人しくそこで待ってろ!!――いいか、迎えに行っていなかったらこれから毎日護衛つけるぞ――――――わかったな、そこにいろよ!!」 「――護衛って……って切れたし。――――な、ひどくね?」 って恵吾に同意を求めてみたけど、こいつは、「仕方ねぇだろ…」とぼそっと言うだけで、俺の苦労を理解しようとしない。 ―――お前だって同じことされたらうんざりするって… なんて心の中だけで思いながら、俺は素直にその場に留まる。 …だって、護衛って…――――イヤだ、あれだけは絶対にイヤだ!! 不正改造の爆音立てて走る単車で毎日送迎。 しかも、”何気に入らないの???”ってくらい眉間に皺寄せて周囲にガン飛ばしまくっちゃうやんちゃ坊主が、いつも周りを取り囲む状況…… 「―――あれだけは、絶対にイヤだ…」 俺の思考を読み取った恵吾が、「…ま、諦めろ」と、肩に手を乗せ苦笑いしやがった。 なぜ俺がこんなにも過保護な状況に置かれているか… それは過去に2度、拉致されたことがあるからなわけで。 ――――兄貴のチーム関係で(汗) 一度目は小学3年生の時。 兄貴がやんちゃ集団の総長になった直後。 俺にはさっぱり理解できない(奴らなりの)しがらみみたいなもんがあったらしく、総長就任するなら、てめぇの弟ぶっ殺す――みたいな。 …いやいや、そんな理屈ねぇだろ。――――と、今にして思えば笑ってしまう様な理由で。 けど、当時の兄貴の求心力(って言うのか??)は、絶大だったようで、すぐに俺は助け出してもらう事が出来たんだよね―――もちろんやんちゃ集団に。 んで2度目は、兄貴がデキ婚する直前。俺、小学6年生。 理由。 “俺の女に手ぇ出しやがって、このくされ純”―――みたいな。 まぁ、この時も俺は無事に助け出してもらったんだけど……実は、この時期の記憶が曖昧なんだ。 覚えてないのが気になって、兄貴にその時の状況を聞いたりしたんだけど、何度聞いても教えてくれない。 “覚えてねぇならそのまま忘れてろ”って毎回言うから、それもそうか…って感じで俺もあれからもう聞くこともなかった。 ―――で、そんな経緯があり、俺は、そこら辺の女の子たちなんかよりずっと手厚い保護を受けて育ってきたわけだ。 しかもなぜか俺の友達になる奴らは兄貴の厳しい面接を受けて、認められた者だけが俺の傍に居ることを許される。 ちなみに第1号が、今俺の目の前にいる恵吾。 幼稚園からの幼馴染で、ガキの頃から”KKコンビ”と呼ばれている。(ダサッ;) んで2号が拉致られるのを目撃した透。 コイツは中学の頃からの付き合い。 どういうわけか、”ケータを守る会”というのを結成したらしく、その会長なのだと言い張っている。(…いや、俺そんなのありがたくないし;) 3号以降は…メンドーだから割愛。 いずれ、俺の友達(兄貴に認められた者たち)は、総勢10名。 まぁ、これだけいれば十分ですわな。 ただですねぇ……俺って、しがない町の酒屋の二男坊ですけど? セレブのお坊ちゃまじゃあるまいし…とは思うものの、今さらこの状況をどうにかしようと言う気も起きず、なんとなくダラダラ大学生になっちゃった俺。 …けどさ。 あの”黒川”ってヤツに会ってしまった俺は、何となく……何となくだけど、今までのぬくぬくとした生活が、ちょっと変化するんじゃないか――――そんな風に思ったんだ。
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