6 メジャーリーガー??

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6 メジャーリーガー??

“そのうちまた掻っ攫いに来る―――” あんな恥ずかしいセリフ残してったくせに、あいつ…黒川はあれ以来一度も俺の前に現れなくて、何だか俺は……ちょっとだけ… ………… いやいやいやいやいやいやいやいやっ 断じてない。 それだけはない。 絶対ちがーーーーーうっ!!! …のかな? 俺の心のずぅ~っと奥の方では、やっぱり思ってたんだ。 “なんで会いに来ねぇんだよ―――”…って。 「―――慶太ぁ、お前、何か元気ねぇな」 学食で焼肉定食(大盛り)をがっつきながら、2号…透が不思議そうにそう聞いてきたのは、俺が黒川に拉致られた日から一週間後の事。 「…そうかぁ?……別にフツーだけどな」 俺は自分の心に湧いている不満やら期待やら諦めやら……何やらをまるっと無視して、そっけなく答えた…けど。 「―――やっぱり、”あの日”、何かあったんじゃねぇのか?あの辺から微妙にお前の元気ない気がするけどな」 ――――お前無駄に鋭いよ…1号め(チッ) 2号の隣でソースが飛ばないよう、注意深くミートソースのパスタにフォークを巻きつけながら、何かを探る口調で恵吾が聞いてきやがった。 「―――んなことねぇんじゃねぇかと思ってると思うけど…」 ―――って、おい、俺!!日本語の使い方おかしくなってるだろっ!! あぁ…二人の視線が突き刺さる… 「…ふ~ん、そうかぁ?――――あ、じゃあさ、飲みに行こうぜ!!最近行ってないじゃん、タカヤさんの店。飲んで食って、元気出せ。なっ!慶太!!」 あぁ、2号。お前が能天気な奴で良かったよ… 「おぉっ、いいね~、行こうぜ行こうぜ!!」 俺は無理やり上げたテンションで無駄に明るく答えてみる。 透はそれに乗っかって、「たらふく飲もう、同志よ」なんて笑ってくれたけど、俺の目の前に座った恵吾に笑顔はない。 ただじっと俺の顔を見る感情の籠らない表情に、俺は自分の無理な笑顔の裏に隠した小さな不安を見透かされてるんじゃないかって、かなりビビってた。 夕方、講義を終えた俺たちは正門を潜り歩道を歩いていた。 「―――あ…あぁぁぁぁぁぁっ?!」 透が突然大声で叫び、静かに横付けされた車を目を見開きながら指さしている。 「―――っ…なんだよ、うっせぇな…何見て――――っ??」 片耳を塞ぎ目を細めた俺は、透の見ている方に視線を流し、瞬間、身動きが取れなかった。 心臓がバクバク高鳴って、若干手も震えてたし、きっと血圧も一気に上昇してたと思う。 「よぉ、ケータ」 相変わらず不敵な笑みを浮かべた黒川が、前回同様、件のグラサンをかけ、レクサスの中から俺に声をかけてきやがった。 「―――あ…」 体中の血液が、全て集まっているんじゃないかって思う程、顔が熱くって、俺は思わず俯いた。 そんな俺の行動を、きっと恐怖によるものだと思ったんだろう、恵吾と透が俺とレクサスの間にスッと立ちはだかる。 「…アンタか、こないだ慶太を拉致ったの。――――どういうつもりか知らねぇけど、もう慶太に付き纏うのやめろよな」 恵吾がひどく不機嫌な声でそう言ったのに、黒川には全く効き目がない。 効き目がないどころか、バカにした様に鼻先でフンッと笑い、グラサンを外して二人に視線を向けた。 「お前らは――――俺を知ってるんじゃねぇか?」 やけに自信ありげな声でそう言って、挑戦的な笑みを浮かべる。 「…えっ?」 「マジか…」 「―――ま、今日は攫って行けそうにないから諦めるか……ケータ、今度は一人で歩いててくれよ~――――じゃあな」 言うだけ言って、レクサスは音もなく走り去って行った。 「――――え?……二人とも、アイツのこと知ってんの…?」 俺以上に動きが止まった二人を、若干不安になった俺は見比べる様に見上げる。 何で固まってんだろ、こいつら… あー、つか、やっぱりアイツって有名人なのかな。俺、芸能関係疎いからな~… なんて考えながらボーッと見上げ続けている俺に、恵吾が呆れた声で聞いてきた。 「つーかさ……お前、マジでアイツ誰だか知らねぇの?」 え~、今さら??知ってたら誰に拉致られましたー…ってちゃんと伝えてるってば。 有名人っぽいなぁ、くらいは何となく思ってたけど、それだけで… 「…黒川って名前だけ……」 別に俺悪くないと思うけど、何となく遠慮がちにそう言ってみる。 「…黒川って聞いてて、アイツの顔見ても、まだわかんねぇのかよ……疎すぎだろ、お前」 いや、透。なぜだろう、お前にそう言われると恵吾に言われた100倍ムカつく。 「…何となく見たことあるかなぁ~…と、一瞬思ったけど…芸能人なのか?アイツ…」 何だか知らない事が罪みたいな気分になってきたんですけど… 「「はぁぁぁぁぁっ…」」 1号2号、同時に溜息をつかないでくれ。 俺、何だかもうそろそろ居た堪れない気持ちになってきた…ちょっと泣きそう。 「―――お前、アイツに会ってるぞ。半年前にな…」 恵吾が心底呆れたという声でそう告げた。 「ウソ…全然覚えてないですけど…」 半年前…半年前…―――――いや、俺の記憶の中にはない。 「―――まぁ、仕方ねぇよ、あの日コイツめちゃくちゃ酔っぱらってたし。興奮してたの俺とお前だけだったしな」 透が微妙なフォローをしてくれた。(凹) ……酔っぱらっていた…? 飲み会の席で会ったって事か。 兄貴繋がりか…――それはねぇな、俺同様兄貴にも有名人の知り合いなんていないはず。 …思い出す事が出来ない。 「…ギブ。――――全然記憶に残ってない。あの黒川って何者なの?」 何だかちょっと悔しかったけど、俺は降参と両手を頭の両脇に掲げた。 きっと情けない顔をしていたんだろうな、俺。恵吾がやれやれ…とばかりに教えてくれた。 「…黒川諒一…年齢は確か…35歳だったかな。MLBの選手だよ、アイツ」 ――――へ…? 「メジャーリーガー?????」
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