変わらないもの

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 あれから数ヶ月間のことはよく覚えていない。今ここにいるということは、その時間を私は生きていたはずだった。しかし、全くもって記憶はその部分だけ一つの大きな穴が空いたように、おぼろげでさえなく、空間として記憶に留まっている。  健人はこの世からいなくなってしまった。 「これから寮を出るよ」  そうメッセージを送って、夜行バスの停留所に向かっている途中で健人は命を落としてしまった。急な訃報に皆、涙が枯れるほど泣き、それでも葬儀は粛々と執り行われた。 「これ、ひよりちゃん宛に名前が書いてたから」  葬儀から数日後、健人の両親から渡された品を私は開けることができなかった。手のひらに収まるくらいの小さな箱だった。綺麗な包装の中身が誕生日プレゼントだということは分かりきっていた。もし開けたとしたら、健人の死を受け入れてしまうような気がした。私はまるで頑是ない子どものようだった。  健人がいなくなってから、数ヶ月後、私は一人で、健人との唯一のデートと言えるようなデートをした公園に足を向けた。  ちょうど、健人と見た紅葉の時期。  健人がいなくなったばかりの頃は、健人の家族はもちろん、私の家族も涙を隠すこともできないくらい悲しみに打ちひしがれていた。  それでも、私が今日ここを訪れたのには意味があった。決して追悼の意味とかではなくて、私はあれから初めて健人に会いたいと思ったのだ。後悔の念からではない。私はこの時になってようやく心から健人を恋しく思った。少しの後悔が積み重なって、どうしてあの時素直になることができなかったのだろうと思う夜を繰り返した。取り返しのつかないことをしてしまったと嘆き、私の手の届かないところへいってしまった健人を思った。  私は彼のことを心から愛してはいたが、帰ってくることを望むことはなかった。もともと帰る場所は私ではなかった。ただそれだけのことだった。  それでも季節は巡る。私は、健人がいなくなってから初めて涙を流した。  目の前に広がる紅葉があまりにも綺麗で。  涙が滲み色彩が歪み、景色はぼやける。それを私は綺麗だと思ったのだ。
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