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(この感じだと、魔力不足が大きいのかもしれないわね。アシュフィールド侯爵領も、もしかしたらそうだったのかもしれない)
土にはたくさんの魔力がこもっている。しかし、何十年かに一度のペースで、その魔力が枯渇してしまうらしい。……そして、その年は凄まじい不作になるとも知っている。……いつしか、実家で暇つぶしに読んだ本にそんなことが書いてあった気がするわ。ちなみに、その本は父の廃棄書物を勝手に拝借して読んでいたものだ。
「しぇ、シェリル様……! そんな、土に触れられては……!」
私が土に触れて吟味していると、カリーさんは慌てたような声音で私に声をかけてきた。……そっか。普通のご令嬢はこんな風に土には触れないわよね。あと、今私の足元にミミズがいるけれど、私は悲鳴一つ上げなかったわ。
「……私、別に服さえ汚れなければ、それでいいので」
「は、はぁ」
あっさりとした私の回答に、カリーさんは少し戸惑っている。……さて、魔力不足ということは対処法は一つ。それ専用の肥料を蒔くこと。しかし、その専用の肥料はかなりの金額がするため、一般の農家では買えない代物。……ギルバート様が、お金を出してくださるといいのだけれど。
(ううん、ギルバート様はお優しいし立派な領主様だわ。……きっと、私の意見も聞いてくださる)
そう思い、私はギルバート様に向かって「大体の原因、分かりましたよ」と少し大きな声で言う。そうすれば、ギルバート様は「本当か!?」とおっしゃって、私の方に近づいてこられた。
「多分ですが、土の魔力不足が原因だと思います。……土に、魔力が少ない気がするのです」
「……そうか。ただ、シェリル嬢は土に触れただけで魔力の量が分かるのか?」
「……そうですけれど」
ギルバート様のおっしゃっている意味が、分からない。普通、触れたら魔力の量が分かるのではないの? そんなことを私は考え、小さく小首をかしげる。そうすれば、ギルバート様は「普通、土の魔力など測定器を使わなければ分からないぞ」ととんでもないことをおっしゃった。
「……はて?」
「もしかしたらだが、シェリル嬢は土の妖精や精霊に好かれているのかもな」
精霊や妖精なんて、空想上の存在ではないの? 私がそんなことを思いながら茫然としていれば、ギルバート様は「まぁ、シェリル嬢が嘘をつくとは思えないし、そっちの方向で支援をしてみよう」とおっしゃった。
(普通じゃ、分からないものなの?)
私は自分の手のひらに載った土を見つめながら、そんなことを思う。……私、結構稀有な能力を持っていたのかしら? もしかして、かなり価値のある存在? いや、それはないか。
そう自分に言い聞かせて、私はただギルバート様とカリーさんの会話を、聞いていた。
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