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(嫁ぐのはこの際良いとしても、早すぎないかしら?)
そう思いながら、私は馬車の外を流れる景色を窓から見つめる。徐々に自然が豊かになる外の景色を見つめ続けること、約五時間。ちなみに、このまま五日間は馬車に揺られ続けることになっている。何故ならば、私が嫁ぐのは東の辺境伯爵家、リスター家だからだ。王国のちょうど中央にある王都からだと、馬車を走らせて六日もかかってしまうの。悲しいことに。
そもそも、私は昨日婚約者と破局したばかりだ。しかし、屋敷に帰ればすぐに父に呼び出され、「お前の次の嫁ぎ先が決まった」と言われた。あの様子を見るに、前々から元婚約者に婚約の破棄を仄めかされていたのだろう。そうじゃないと、こんなにも早く次の嫁ぎ先が見つかるわけがない。
(しかも、冷酷な辺境伯ですか、そうですか)
リスター辺境伯爵家の現当主は、ギルバート様という男性。年齢は三十三。バツなしの生粋の独身。だが、今まで婚約者「は」結構な数がいたらしい。しかし、みながみな一ヶ月ももたずに逃げ出したとか何とか。……その結果、付いた呼び名は「冷酷な辺境伯」。陰では女性をいたぶっているとか、そうい噂の絶えない人。
普通の親ならば、娘をそんな人のところに送ろうとはしないだろう。……とはいっても、私の親は普通ではないのでそう言うことは通用しない。
私の父、アシュフィールド侯爵は私のことを愛していない。むしろ、前妻の娘である私を疎んでいる。父が愛しているのはエリカだけ。そう、堂々とおっしゃるタイプだった。
そして、父よりも厄介だったのが父の後妻で私の継母に当たる、アシュフィールド侯爵夫人。元は貧乏な男爵家の生まれであり、父とは身分差を乗り越えた真実の愛で結ばれている……とか堂々とおっしゃる、夢見がちな女性である。そんな父と母に存分に甘やかされた私の異母妹エリカは……大層わがままに育ってしまった。
(使用人たちが、逃げ出さないと良いのだけれど)
エリカは、何かがあればすぐに癇癪を起こし使用人たちに当たり散らしていた。そのため、使用人たちはみなエリカに手を焼いていた。だが、父はエリカをバカにする使用人はすぐにクビにした。父にとって、後妻とエリカはそれほど大切な存在だったのだ。それ以外の者など……きっと、ごみ以下だと思っているのだろう。だから、私のことも何の躊躇いもなくギルバート様に差し出した。
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