第12話 優しい人

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 私がリスター辺境伯爵家にやってきて、三日が経った。無趣味無特技の私を気遣い、クレアとマリンが用意してくれたガーデニングスペースには、この季節に咲くというお花を植えることになっている。そして今、この季節に咲くお花を図鑑で調べている最中だった。あとは、お花を見繕ってギルバート様に苗の手配をお願いする。その後、植える。  図鑑の一ページをぺらりと捲り、私は唸る。私は、紫色が一番好きだ。そうなれば、自然と紫色のお花を植えたくなってしまう。だが、紫色のお花は比較的高価なものが多い。紫とは、尊い色だとされているから。……それに、素人が変に高価なお花に手を出さない方が良いに決まっている。失敗した時の損失を考えると。 「よし、これにしましょう」  図鑑に付箋を貼り、私は図鑑を持ってゆっくりとギルバート様の元に向かうことにした。この時間、ギルバート様は休憩されていることが多い。休憩時間に私の顔を見るのは嫌かもしれないけれど、困ったことがあれば遠慮なく言ってほしいとおっしゃったのはあちらだ。欲しいものも、手配してくださるとおっしゃっていた。ならば、訪ねても問題ないだろう。 「クレア、マリン。私、ギルバート様の元に行ってみるわ」 「さようでございますか。では、私たちもお供させていただきます」 「はい」  クレアとマリンに声をかければ、二人はそう言ってくれた。……ここ三日で、クレアとマリンとの距離はかなり縮まったと思う。……とはいっても、他の使用人の人たちとの仲は普通だし、サイラスさんとはあまりいい関係を築けていない。……サイラスさんとも、いずれは仲良くなれればいいのだけれど。だって、執事だし。
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