第12話 優しい人

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 そう考えながら、私はゆっくりと歩き一階にあるギルバート様の執務室に向かう。ギルバート様の執務室は、一階と二階にそれぞれ一つずつある。そして、誰かが滞在している間は主に一階の執務室を使われるそうだ。客人が、訪ねやすいようにということらしい。  ギルバート様は、顔立ちは強面だし体格はがっしりとされている。でも、その気遣いはこまやかなものであり、使用人たちから慕われている。使用人たちは誰一人としてギルバート様のことを悪く言わない。むしろ、笑顔で「素敵な人だ」という。……私の実家とは、大違いだった。 「ギルバート様。少々、よろしいでしょうか?」 一階にあるギルバート様の執務室にたどり着き、その扉をノックすれば数秒後に中から「いいぞ」という声が返ってくる。そのため、私はゆっくりとドアノブに手をかけてそのままお部屋の扉を開けた。 「どうした、シェリル嬢。何かあったのか? それとも、何か欲しいものでもあったのか?」 「はい、クレアとマリンに勧められて、ガーデニングを始めようと思いまして……。そのために、お花の苗を手配していただきたく……」 「そうか。庭師には許可を取ったのか?」 「はい」  クレアとマリンが、許可を取ってくれているはずだ。そう思って二人に視線を向ければ、二人は静かに頷いてくれた。その姿は、まさに「仕事のできる侍女」といった雰囲気。普段のフレンドリーな雰囲気は欠片も見えない。
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