第13話 堅物執事と刺繍

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「……そんなことを言って、下手な行動をしても同情はしませんが、怪我はいけませんね」  血がにじんだ私の指を見て、「これぐらいならば、良くあることですね」というと、サイラスさんは近くにあったハンカチで私の血を拭きとる。その後「今度は、刺さないように」なんて言う。……私だって、好きで刺しているわけではないのだけれど。私は、そこまでして人の気を引きたいとは思わないし。 「……旦那様の元に図々しくもやってきて、刺繍の一つも満足にできないとは……」  そして、それから数十分後。私が刺し終えた刺繍を見て、サイラスさんはそう言ってため息を零した。確かに、私の刺した刺繍は不格好だ。簡単な図面にも関わらず、素人感が満載である。……いや、実際素人だけれど。 「これから、毎日刺繍のレッスンをしますからね。あと、ダンスレッスンに、マナーレッスン。他、諸々のレッスンを全て、受けていただきます」 「……はい」  ギルバート様の手前、下手な嫁を送り出したくないということなのだろう。そんなサイラスさんの気持ちは、よくわかる。だから、言っていることは間違っていない。  サイラスさんはその言葉だけを残して、客間を出て行った。……しかし、見れば見るほど不格好な刺繡だ。単色で子供でも出来そうな図面なのに、ここまで不格好にできるとはこれはある意味才能かもしれない。……なんと、悲しい才能だろうか。
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