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その後、やたらと大きな玄関の扉を数回ノックする。……しかし、返事はない。やはり、父が手紙を出したというのは嘘っぱちだったのだろう。……さて、会えないことにはメイドとして頑張るということも出来そうにない。ここで立ち往生するのも、なんだか嫌だ。完全に不審者だから。本当に、どうしよう。そう思っていると、不意に扉がゆっくりと開く。そして、私の正面に――中年の男性が、現れた。
「……どちら様でしょうか?」
その中年の男性は、そう言うと私のことをジロジロと見つめてくる。大方、不審者ではないか吟味しているのだろう。それに気が付いたので、私はゆっくりと一礼をして「アシュフィールド侯爵家から参りました。シェリルと申します」と自己紹介をした。そして、ぺこりと軽く頭を下げる。
「アシュフィールド……? あぁ、あの落ちぶれた侯爵家ですか。……そう言えば、旦那様がそこから手紙を受け取っていたような気がしますね」
……どうやら、こんな辺境の地にもアシュフィールド侯爵家が落ちぶれているのは伝わっているらしい。それに微妙な気持ちになりながらも、私がその男性を見据えれば、男性は「では、旦那様に確認をしますので、とりあえず応接間に案内しましょう」と言ってくれた。
「……ありがとう、ございます」
その言葉に、私はそれだけを告げてゆっくりとその男性の後に続いた。
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