第2章 可愛い鹿乃子さん

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ちなみに吠えた祖父へ「目のくれぇうちって一昨年、白内障の手術したじゃないか」とか父が聞こえないように言うもんだから、私には別の意味でも地獄だった……。 「じゃあ、先行くねー」 「おう」 祖父の分もあわせて片付けをし、先に隣の工房へ行く。 間借りしている身なので毎朝、掃除と整理整頓をしていた。 祖父はいまから新聞タイムだ。 「いつも悪いな」 「別にー」 準備が終わり、そろそろはじめようとしていたら、父と祖父が来た。 各々に作業をはじめる。 いつもと変わらない一日、――の、はずだった。 「鹿乃子さん!」 「えっ、は?」 いきなり、工房へ飛び込んできた男から抱きつかれる。 幸い、新しい柄を構想中で鉛筆を握っていたところだったから、惨事は免れた。 「えーっと」 「……おい、おめぇ」 低い祖父の声が地を這ってきて、抱きつかれたまま振り返る。 ゆらりと立ち上がった祖父の口からはふしゅー、ふしゅーなんて煙が上がっていそうだ。 「うちの鹿乃子に抱きつくなんざぁ、いい度胸してるな、あ゛あ゛っ?」
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