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「迎えも行きますよ。
早く会いたい癖に無理、しない」
『鹿乃子さん、優しい。
私はこんなに優しくて可愛い鹿乃子さんが妻だなんて、幸せ者です』
画面の向こうでにへらと、だらしなく三橋さんが笑う。
「まだ妻じゃないですし、残念ながら妻になる気もまだありません」
『大丈夫です、すぐにそうなりますから。
……すみません、そろそろ出ないといけないので』
カップの中身を一気に呷った三橋さんが立ち上がる。
「はい、いってらっしゃい」
『いってきます、可愛い鹿乃子さん』
ちゅっ、とリップ音のあと、スピーカーを切るコマンドの声と共に画面が切れた。
「相変わらず、諦めるという字は辞書にないんですね」
私も残りのコーヒーを飲んで立ち上がった。
三橋さんの二度目の訪問から半月ほどたった九月の半ば、私も例の家に引っ越しした。
とはいえ、実家の部屋はまだそのままにしてある。
だって私はまだ、あの家に帰る気満々だし。
……嘘です。
最近少しだけ、揺らぎはじめている自分を、自覚していた。
「さて。
洗濯からはじめよーっと」
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