第4章 これは同情で愛情ではない

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「迎えも行きますよ。 早く会いたい癖に無理、しない」 『鹿乃子さん、優しい。 私はこんなに優しくて可愛い鹿乃子さんが妻だなんて、幸せ者です』 画面の向こうでにへらと、だらしなく三橋さんが笑う。 「まだ妻じゃないですし、残念ながら妻になる気もまだありません」 『大丈夫です、すぐにそうなりますから。 ……すみません、そろそろ出ないといけないので』 カップの中身を一気に呷った三橋さんが立ち上がる。 「はい、いってらっしゃい」 『いってきます、可愛い鹿乃子さん』 ちゅっ、とリップ音のあと、スピーカーを切るコマンドの声と共に画面が切れた。 「相変わらず、諦めるという字は辞書にないんですね」 私も残りのコーヒーを飲んで立ち上がった。 三橋さんの二度目の訪問から半月ほどたった九月の半ば、私も例の家に引っ越しした。 とはいえ、実家の部屋はまだそのままにしてある。 だって私はまだ、あの家に帰る気満々だし。 ……嘘です。 最近少しだけ、揺らぎはじめている自分を、自覚していた。 「さて。 洗濯からはじめよーっと」
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