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「も、もしもし」
震えそうになる声を抑えながら文男が電話に出る。
「わたしも好きよ。文男さん」
なっちゃんの声が耳の奥に広がり、文男の脳を震わせた。耳元でなっちゃんの声を聞けるだけでもうれしいのに……。
「いまなんて言った? もういっかい言ってくれる」
汗ばんだ手で文男はスマホを握りしめる。
「文男さんのこと好きです」
俺のことが好き? 願いが叶ったのか? いや待て。めちゃくちゃ声が近いぞ。まるですぐ近くにいるみたいに。
「なっちゃん、いまどこ? どこにいるんだ?」
文男はぐるりと広場を見渡した。
その瞬間、パンパンとクラッカーが弾ける音とともに懐中電灯が灯り、拍手が起こった。
その拍手に送られるようにスマホを掲げたなっちゃんの姿が浮かびあがる。
なっちゃんが文男の前に歩みよった。
「どうしてここに?」
「今夜、文男さんが私に大事な話をするって。所長に言われて……」
なっちゃんがうしろを振り返る。
そこには懐中電灯で文男たちを照らす所長と吉田さんの姿があった。そして、そのずっと奥のほうを見て驚いた。木々の隙間からわずかに駐車場が覗いている。文男はその景色に見覚えがあった。
そうか。ここは市街地の外れにある展望台だったんだ。
文男はまったく気がつかなかったが、山の中を通って展望台に隣接する広場に上がってきたようだ。体力自慢の矢次のことだ。きっと入念な下調べをしたに違いない。
「こうでもしないと、おまえら、つきあわんだろ」
所長が笑った。
「まったく世話が焼けるなあ」
吉田さんも笑った。
「考えたのは俺だぞ」
矢次が言った。
だろうなと、文男は思った。宇宙人なんているわけない。
「でも、これはもう恋愛小説のネタそのものだよ。宇宙人がほんとにいたら喜んでるだろうな。ケケケ」
矢次がいやらしい声をあげて笑う。
「おまえが宇宙人だろ」
願い事を叶えてくれたんだから。感謝してるよと言葉にするのは歯がゆい気がしたので、文男は心の中だけで言った。
みんなで駐車場に停めてある車に向かう途中、文男は暗闇の中で告白したことが気にかかり立ち止まる。
「どうしました?」
なっちゃんも立ち止まる。
ふたりを残し、三人は駐車場に向かう。
やがて車のライトが点き、眩い光がふたりを包みこむ。
「なっちゃん、好きだよ」
暗闇の中で言えたこと。それを光の中でも言えた。
「私もですよ」
おーい帰るぞ。
駐車場のほうから矢次の呼ぶ声が聞こえた。
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