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朝から暑い
空は雲に覆われ、朝から蒸し暑かった。
文男は駐車場に車を停めると、事務所へと急ぐ。主に水回りの資材を販売する会社に勤めている。大学卒業後に入社した文男は、今年で五年目になる。
「おはよう!」
外壁がトタンでできた簡易な建物の中は、まだ冷房が効いておらず、熱気が文男を迎える。セミの鳴く声が薄い壁を通して騒がしく、暑さに拍車をかけてくる。
「今日も暑くなりそうですよ。文男さん」
入口に一番近い席に座るなっちゃんがいつものように少しはにかむような笑顔を向けた。
従業員五人の会社の事務所には唯一の女性社員である事務員のなっちゃんの姿しかない。
なっちゃんは文男のひとつ後輩。奈津子だから、なっちゃん。半袖シャツから伸びる腕は色白で細く、前髪の下から覗く目はいつも自然な笑みを湛えている。
入社当時、文男はあまりにハードな仕事に辞めようかと悩んだ時期もあった。そんなとき、なっちゃんが入社した。以来、辞めようという考えは吹っ飛んだ。
「あぢぃ、なっちゃ~ん。俺もうダメかも、なんとかしてこの暑さ」
デレデレした顔で文男はなっちゃんに見とれる。
「冷房が効くまでの辛抱です。文男さんの席は吹き出し口の風が当たるから、すぐ冷えるでしょ。ほら文男さん。そんなところに立ってないで自分の席に着いてください」
文男の熱い視線を感じたのか、なっちゃんが軽く受け流す。文男は名字が権川原谷(ごんがわらたに)と呼びにくいから、みんなから下の名で呼ばれている。後輩のなっちゃんもそれに倣って「文男さん」と呼ぶ。それが文男にはうれしかった。
「そうだね」
素直に返事をして文男はなっちゃんの横を過ぎ、自分の席に座る。
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