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宇宙人に願いを
矢次の車は市街地を離れ、山間部をひた走った。対向車はなく、車のライトが背の高い木々の足下を照らす。そこらじゅう野生動物が潜んでいそうな藪が広がっていた。
いったいどこに向かうというんだ。
いまさら戻れないとは思いながらも、文男の脳裏に不安がよぎる。
「おい、まだかよ」
いっこうに目的地に到着しないことに痺れを切らした文男が聞いた。
「まあ待て。おっとと、ここだ」
山道には冬場の積雪に備え、チェーンを着脱するための場所があり、そこに車は停まった。
エンジンを切り、ライトが消えた途端、暗闇に包まれる。
「行こう。こっちだ」
車から降りると矢次は勢いよく山の中に入っていった。
文男も矢次のあとにつづく。町中と違い山の中はいくらか涼しく感じられた。
少し進んだとき、どこか遠くのほうで車のドアが閉まるような音が聞こえた気がして、文男は振り返った。だが、暗くてなにも見えない。
背の高い木に覆われ、日中でも光が届かないような山の中をなにか目印でもあるかのように矢次は迷うことなく奥へと進む。
矢次が持つ懐中電灯の明かりだけが頼りだった。落ち葉が堆積した道なき道をふたりは黙々と進んだ。
しばらく進んだところで急に視界がひらけた。目の前に、およそ三十メートル四方の広場が現れた。不思議なことに、そこだけぽっかり木が生えておらず、見上げると雲に覆われた夜空を確認できた。足元には短い草が生えているだけで昼間だとキャンプ場のように見えるだろう。
「着いた。ここだ」
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