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懐中電灯の弱い明かりが、突如現れた広場をゆっくりと照らす。風が吹き抜け、ざわざわと葉が擦れる音に文男は文字通り臆病風に吹かれる思いだった。
「宇宙人って、やっぱUFOに乗ってくるんだろうな」
後ずさる思いを悟られないように文男は低い声でつぶやき、空を見上げた。
灰色の雲に覆われているだけで、それらしきものは浮かんでいない。
「そこに立て」
命令口調で矢次が二、三メートル先を懐中電灯で照らす。
「立ってどうすんだよ」
文男が躊躇っていると、
「どうでもいいから、いま照らしたそのあたりに立て。早くしろ!」
矢次が声を荒くして文男を急かす。その声に圧倒され、文男は矢次に背を向ける恰好で懐中電灯が照らす場所に立った。
文男が立つと明かりは消され、暗闇があたりを支配する。どこかで動物が奇妙な声をあげ鳴いている。
「立ったぞ。どうしたらいい?」
文男はいまさら矢次の話に疑念を抱く。いったいなにがしたいんだ。
「まず目を閉じろ」
「閉じたぞ」
暗闇にいるのに目を閉じてどうするつもりだ。
薄気味悪い気がしたが、文男は言われたとおり目を閉じた。するとガサガサと文男の周りで足音が聞こえた。
あ、と思い目を開けようとしたが、
「目は閉じたままだ。少し待て」
文男の心を見透かすように矢次が先手を打った。
「よし、願い事を言ってみろ」
宇宙人らしき存在は感じなかったが、文男は願い事を言ってみた。
「宝くじ一等当選!」
当たれば、なっちゃんとの幸せな日々が待っている。心の中でそう願った。
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