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「なっちゃん、この時期の外回りってほんと地獄なんよ。おまけにうちのトラック、冷房がぜんぜん効かんから」
なっちゃんとのあいだにひとつ机を挟んで、文男はなっちゃんに話しかける。
「あんまり暑いと冷たいものが食べたくなりますよね」
なっちゃんは書類に目を落としたまま素っ気なく答える。彼女は朝礼までに、お客さんからの注文内容を確認する作業があった。だから忙しい。
「あ、そうそう。それで思い出したけど、こないだすごく美味しいカキ氷屋があるって、お客さんから教えてもらったんだ。よかったら今度、一緒に行ってみない?」
文男は自分の心臓がこれでもかと大きな音を立てているのがわかった。というのも文男はこれまで女性とつきあった経験がない。理由は簡単。度胸がないせいで告白のタイミングを逃し、いわゆる友だちのままで終わるタイプなのだ。
そんな文男が生まれて初めて女性を誘った。当然ながら心臓も驚く。そして、忙しいなっちゃんも驚いた。
「え、ほんとですか。カキ氷屋さん、行きたい! 行きましょう!」
なっちゃんが即答した。
「じゃ、じゃあ日にちを決めよう」
なっちゃんの反応が嬉しすぎて、文男は指を震わせながら、さっそくスマホのカレンダーを開く。ほぼ同じタイミングで事務所の扉が開いた。
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