お昼の休憩

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お昼の休憩

 昼になり、文男はいったん事務所に戻る。 「暑かったでしょ」  額から汗を流す文男を見て、なっちゃんがすぐに声をかける。 「はぁ暑いけど、腹減ったぁ~」  事務所にはなっちゃんのほかに所長と吉田さんがいた。そこに矢次も戻ってきて、机に弁当を広げた。みんな愛妻弁当だ。なっちゃんも弁当は自分でつくると話していた。そんな中、文男は近くのコンビニで買った唐揚げ弁当を広げる。店のレンジでチンしてきたのですぐに食べられる。 「文男さん、また唐揚げ弁当ですか? 脂っこいものばかり食べてたら体に悪いですよ」  あいだに矢次を挟んで、なっちゃんが話しかけてくる。  事務所の机は入口から、なっちゃん、矢次、文男が横並びに座っている。三人の前に所長と吉田さんが机を並べている。会話はすべて丸聞こえだ。 「文男、おまえ彼女はいないのか?」  所長がご飯を頬張りながら聞いてくる。吉田さんはその横ですでに食べ終わり、机に突っ伏して眠っていた。  三十後半の吉田さんは二人目の子どもができたばかりで、夜泣きがひどく眠れないとこぼしている。睡眠不足を昼休憩で補っているのだ。 「いないです。ていうか、ひとりのほうが楽でいいですよ」  吉田さんを見ていると大変そうだ。このままひとりでもいいかと文男は思うことがある。 「ああ、今日の弁当すげえうまい」  新婚ほやほやの矢次がわざとらしく手作りの弁当を文男のほうに見せつける。矢次の奥さんは以前どこかの調理場で仕事をしていたらしく、毎日手が込んだ弁当をつくっている。  新婚らしい熱々ぶりに、文男は結婚もいいなと思ったりもする。だがそれ以前に相手がいない。  なっちゃんのほうにそっと目を向ける。  文男のことなど興味ないとばかりに、なっちゃんはパソコンの画面をじっと見ていた。
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