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夜遅く
現場に資材を運び終え、事務所に戻った文男は重い足取りでデスクに着いた。とっくに日は沈み、夜の闇にあたりは沈んでいる。
夜間に行われる工事現場から急な注文が入ることがある。まさに今夜がそうだった。
すでに午後十時を過ぎていた。なっちゃんは定時の五時半きっかりにいつも帰る。当然もういない。ふだんは居残ることが多い所長と吉田さんもいない。事務所には矢次がひとり残ってパソコンの画面に向かっていた。矢次も文男と同じく担当しているお客さんから呼び出された口だった。
なっちゃんがいないだけで事務所は微塵の魅力もない、ただの掘っ立て小屋に変わる。おまけに冷房が切られ蒸し暑い。今夜も熱帯夜だ。
ふぅ。
どっと疲れが出る。文男はイスに沈み込むと大きく息を吐く。
なっちゃんは自分のことをどう思っているんだろうか。
時間があると文男はそんなことを考える。じっさいには怖くて聞けない。文男にとって彼女は高嶺の花でしかなかった。
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