夜遅く

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「お疲れみたいだな」  隣の席に座る矢次がパソコンの画面を睨んでいる。といってもネットでエンタメニュースを見ているだけだ。 「運び終わったと思ったら、不足の部材が発生したから持ってこいだもん。挙げ句に急いで持ってたのに、遅いだって。ふざけてるよ」 「よくある話だ」 「まあいいけどさ。今日の仕事は終わりだし。あとは帰って寝るだけ。でも、おまえはいいよな。帰ったら奥さんが待ってんだろ」  ここ最近、矢次は運気がうなぎ登りだ。学生時代からつきあっていた彼女と結婚したかと思えば、先月は宝くじが当たったと喜んでいた。たった一枚しか買わなかったのに百万も当たったらしい。 「待ってなんかないって。いつも帰りが遅いから、いまじゃ先にごはん食べて寝てることだってあるんだから」  同じ日に入社し、同じように遅くまで働き、同じように生きていくんだと思っていた。だけど、矢次は以前とどこか違って見えた。  もしかして運を引き寄せるなにか秘策でもあるのだろうか。文男はぼんやり考える。
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