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「うそに決まってる」
騙されるな。矢次はちょいちょい文男をからかうところがあった。
「うそじゃない。俺を信じろ。いいか、よく聞けよ」今夜の矢次はいつになく真剣な表情で文男に告げる。「記憶のスキャンはひとりに対して一回で充分らしい。一生のうちに小説になりそうな出来事って、そんなにないもんだって。当然、願い事も普通は一回。でも友だちを紹介したら、その友だちはもちろん、紹介したやつの願い事も叶えてくれるっていうんだ。いわゆる友だちキャンペーンだ」
うそだ。宇宙人なんているわけない。おまけに友だちキャンペーンだと。
「もう一回、俺も願い事をしたいんだ。な、紹介させてくれよ」
冷静になれと訴える文男となっちゃんと幸せに暮らしたいと願う文男が戦った。そして勝者はあっさり決まる。
「わかった。それなら紹介してくれ」
願い事が叶うと力説する矢次の話は眉唾物だったが、それでも文男は話に乗ってみることにした。どうせ帰ってもメシ食って寝るだけだ。
「宇宙人は草木も眠る深夜、それも光がない暗闇の中でしか会えない。今夜は新月。おまけに雲で星も隠れている。俺は最高の暗闇ができる場所を知っている。だから、すぐ行こう」
「まじかよ」と言いながらも文男は、矢次とともに会社を出ると、そのまま矢次の車に乗り込んだ。
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