ロウソク男爵

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ロウソク男爵

 真っ暗な闇の中赤みを帯びた小さな火が踊るように跳び跳ねています。 「あー、くそっ、やってられるか!」 近づくにつれ大きくなるその声は何やら怒っているようです。 「なんでこんなに暗いんだ! くそっ、くそっ!みんなあいつが悪いんだ!」 やがて光の正体がぼんやりと見え始めました。   それは大きなロウソクでした。 「そんなに怒らないでくれよぉ」  弱々しい声はロウの部分でした。 先程から叫んでいるのは炎の方で、赤々とした顔をホウボウ膨らませ辺り構わず喚いています。 だらだらとロウを溶かしながら熱くて堪らないのか白い手足をバタバタさせ走り回っていました。 「うるさい!こう暗くっちゃ何も見えないだろ!皆のために明るくしてやっているんだ、何が悪いって言うんだ!」 「溶けちゃうよぉ、消えちゃうよぉ」 慌てている体は、確かに先程より縮んでいます。  どうしてそんなに怒っているのか そう聞くと火頭は赤々とした目でこちらを睨み言いました。 「怒りというのは力になる。 怒れば怒る程 勢いがつくというものだ。」 「おかげで身を滅ぼすというものだ。」 また少し体を縮ませながら白い体は襟を正します。 「皆 正しい事をするべきだ」 「正しいというのは誰が決めるのかな」  火頭が勢いよく顔を膨らませると白い体はお辞儀をしながら持っていたステッキをくるくる回しました。 「意地悪な いばら が悪いんだ。 こんなものは焼いてしまえ。 皆のために焼き払ってしまえ!」  火頭が叫ぶと白い体は大きなベルのような物に棒がついたエクスティングィシャーを被せて ふうっ と一息つきました。 「失礼。たまには息抜きをしなくては…」  中の火頭は消えていないようで、ホタルブクロの花弁の中に蛍がいるみたいにふんわりと光を放っています。 大きく息を吸い込んで背伸びをすると縮んでいた体がぐんと伸び、立派な紳士の姿に変わりました。 「これはこれはお初にお目にかかる。私は大いなる器の小さな灯火、ゲイレー・ジ・ティギット卿。皆にはロウソク男爵と呼ばれている。」  ロウソク男爵は胸元から白いハンカチを取り出すとひと撫でしそれを差し出します。 「空までもいばらに覆われた、この暗闇ではきっとこれが役に立つ」  ハンカチは一本のキャンドルに姿を変え、ロウソク男爵が自らの頭から火を移すとそれを燭台に載せてくれました。
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