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鳴かない鳥
しばらく歩くと今度は頭上からバサバサと羽音が聞こえてきました。
肩に止まったのは一羽の小鳥です。
とても美しい小鳥は愛嬌良く首をかしげます。きっと綺麗な声で鳴くのでしょう
ところが小鳥は首をかしげるだけで一音も音を出しません。
喉を怪我でもしているのか もしかしたら声の出し方がわからないのかもしれません。
「いいえ、その子は言葉を知っていますよ」
答えたのは目の前に広がる大きな池でした。
「その子は声を出すことをやめてしまっただけなのです」
鏡のような池がそう言うと小鳥は居づらそうに飛び立ってしまいました。
声を出すのをやめたとはどういうことか
池を覗き込むと空高くはばたいた小鳥が気持ち良さそうに暗い空を悠々と泳いでいきます。
「あの子は言葉が怖いのです。
傷つくことも傷つけることも。
それはどんな刃物よりも、飛んでくる鉛よりも、痛いのです。」
池は畔に止まっていた小さな木舟を持ってきてくれました。
「私はいばらの姫の涙で出来ているのです。もう止めてくれなくては、私は海になって陸全てを飲み込んでしまう」
悲しそうにそう言うと小さな小瓶に涙を入れてくれました。
「小鳥が羽を置いていきましたよ。
これであなたは何処へでも行けるでしょう。でも、忘れないで。帰る場所はちゃんとあって、あなたをいつでも迎えることを」
池は愛おしそうに小舟をゆらゆらと抱き抱えました。
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