Side B

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* * * 「お願いします!」  私はこれまであったことを全部説明し、深々と頭を下げた。いきなり連れて来られた彼女は、先ほど読んでいた本に視線を落としている。  教室を飛び出した私たちは、学校の屋上に来ていた。人目のない場所と言って、パッと思いつくのがここしかなかった。私はこの日、学校生活で初めて屋上に立ち入ったが、そこは思いの外静かで、グラウンドで練習に励むサッカー部や野球部の声が、時折遠くから聞こえてくるのみだった。 「つまり……自分に危害が及ぶ前に、お祓いがしたい。そのために、専門家である私の意見が聞きたい」  風に乗って、彼女の声が私の耳まで届く。私が視線を向けると同時に、彼女は読んでいた本をパタンと閉じた。 「正直言っていい?」  そう言うと、彼女は私との距離を一気に詰め、顔と顔はもう少しで接触しそうになった。怖くて視線を外すことができない。彼女は険しい表情で私を睨みつけていた。 「もったいないと思う!」  屋上に彼女の声が反響する。私は彼女の言葉が理解できなかった。 「……え?」  間抜けな声で返事をすると、弾丸のごとく言葉が飛んできた。 「だってさ、考えてみな? 幽霊見える人なんて何人いると思ってんの? 霊感が強くて、すーんごく限られた人しか見れないんだからね! しかも、会話した? 意味が分からない。あんた、自分の才能分かってる?」  彼女の熱量は凄まじかった。 「いや、あの……でも……見えてもそんな、嬉しくない、というか……」  私は補足をしたが、それが逆に彼女を怒らせた。 「私なんて見たくて見たくてたまらないのに、ずっーと見えないんだよ!? 学校や地域に伝わる都市伝説、UMAすなわち未確認生物、もちろん幽霊だって……ありとあらゆる文献を漁っては、現地取材だって欠かさなかった。オカルトと名のつくものなら、この小島奈津美の右に出る者はいない! なのに! おかしくない!? こんなに情熱を注いでるのに! 神は不公平だ! 要らないならその才能よこしなさいよおお!!」  彼女は持っていた本を手放すや否や、私の肩を掴んで前後に揺さぶりをかけた。あまりの勢いに目が回り、首がもげそうになる。下手したら、私は先に彼女に殺されてしまうかもしれない。いや、実は彼女こそが、幽霊の彼が送り込んだ刺客かもしれない。  そんな馬鹿げたことを考えて間もなく、彼女の手が体から離れ、私は晴れて自由の身となった。
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