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Side A
その日、俺は初めて彼女から物をプレゼントされた。特に説明もなく、彼女の手から、静かに青いベンチの中央に置かれる。それはクッキーだった。
透明な袋の中には丸や四角のクッキーが袋詰めされており、淡い黄色のリボンで袋の口が結ばれている。袋の中央には、店の名前らしきラベルも貼ってある。見た目からして美味しそうだったが、俺が気になったのはもうひとつの包みの方だった。
「そっちは?」
指をさすと、彼女は慌てて自分の後ろに隠してしまった。
「こ……これは違うやつ」
すぐさま、ブスッとした目が俺を睨む。しかし、そんなことで俺の好奇心は簡単に収まらない。
「見るだけでもだめ?」
そう言うと、彼女はあからさまに困惑した。しばらくそのまま見守っていると、彼女は苦悶の表情を浮かべながら、後ろに隠してあったものをベンチの中央へ差し出した。それも透明な袋に入っていたが、中には真っ黒な丸い塊がいくつか入っていて、触ったらボロボロに崩れ落ちそうなくらい脆そうだった。加えて、少しばかり焦げ臭い。最初に見たクッキーの袋に真似て、袋の口には黄色いリボンがついていたが、輪っかが左右非対称で不格好な見た目だった。顔を上げ彼女を見ると、いつのまにか顔全体が真っ赤に染まっている。
──俺は、何かやらかしてしまったのだろうか?
一瞬そんな心配もよぎったが、不意に彼女の手に視線を移すと、いつも綺麗な彼女の指の一本一本に、絆創膏が貼られていることに気が付いた。所々うまく覆えてなくて、茶色くなった皮膚が見え隠れしている。俺はハッとした。
「作ってくれたの……?」
尋ねた瞬間、彼女は俺に背中を見せる。どうやら図星だったらしい。俺は途端に頬の筋肉が緩んだ。
「だから嫌だったの!」
そのとき、突然彼女から攻撃的な言葉が発せられる。わけが分からず、俺がポカンと彼女を見ていると、彼女は小さく体を丸めた。
「私の思った通り……こんなの……笑われて当然だよね……」
それから悲しそうに俯いてしまった。
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